元WBA世界J・バンタム級(現S・フライ級)チャンピオンの鬼塚勝也は一
般的にはいまも現役当時もボクサーとしてそんなに高い評価を受けては
いないと思う。
それはタイトルを手にしたタノムサク・シスボーベー(タイ)との試合が非常
に接戦で、世界戦の採点基準をよく知らないひとには"疑惑の判定"としか
うつらなかったことに端を発する。
実際このクラスの日本人世界チャンピオンは数多いが、専門家のあいだで
も渡辺二郎や川島郭志などと比べるとあまり高く評価する声はない。
彼のキャリアのピークはおそらく中島俊一(ヨネクラ)から奪った日本タイト
ルを保持していたころだろう。
ただ、もし網膜剥離を患っていなければもっと強いチャンピオンになってい
たと思う。
イ・ヒュンチュル(李炯哲)との最後の防衛戦は壮絶だった。
第9R、鬼塚は一方的に打ちまくられた。
だが倒れない。ただボクサーとしての本能だけで立っている感じだった。
このままでは本当に事故が起こるとわたしは思った。
気がつくとテレビに向かって叫んでいた。
セコンドはなぜタオルを投げなかったのだろう?
結局チャンピオンは1分以上も挑戦者の連打を一方的に浴び続け、レフリ
ーが試合をストップした。
このときはじめてわたしは彼を『偉大なチャンピオン』だと認めた。
いや、『偉大なチャンピオン』だったと。

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