田宮二郎の主演したドラマ『白い巨塔』、わたしがとりわけ気に入っている作品の
ひとつである。唐沢寿明の主演した方の同ドラマをわたしは観ていないので、『白
い巨塔』といえばこちらの方をイメージせざるを得ない。
このドラマはとにかく役者陣がすごい。田宮二郎はともかく、里見役の山本學、鵜
飼医学部長役の小沢栄太郎、大河内教授役の加藤嘉、東教授役の中村伸郎、
船尾教授役の佐分利信、そしてなんと言っても柳原医師役の高橋長英、いずれ
もすばらしい演技を観せてくれた。
高橋長英の役どころは財前(田宮)のもとで働く医局員で、気弱だが芯には強固な
正義感を持っている医師である。財前の圧力に圧倒され、初めは財前の言うがま
まに動いていたが、財前が自分の傲慢さ故に起こしたミスを臆面もなく柳原のせい
にする姿を見て、たまらず裏切りの証言をしてしまうのである。この一連の感情の
変化を見事に表現しているのである。これが実にすばらしい。ここぞといった山場
に力の入った演技で魅せるのではなく、地味に微妙な感情の変化を表現していく
難しい作業を、彼は見事にやってのけている。彼の演技を観るだけでもこの旧作
を観る価値はあると思う。
ただ、役者陣の充実ぶりはこのとおり見事なのだが、ひとつ演出に疑問点がある。
ドラマの焦点となる佐々木庸平の死についてなのだが、彼は財前の執刀の時点
で胃噴門部の癌が肺へ転移している。当時の医療水準ではこの時点で全身病と
見なされ、助かる見込みはないはずなのだが、ドラマでは財前の傲慢がなければ、
さも佐々木庸平は助かったかと錯覚するような親族の行動を描いている。もうひと
つ、婦長の亀山君子が証言に立つまでの過程もなにか不自然な感じがする。
そういった点を差し引いてもこのドラマが心に残るのは、なによりも役者の演技が
素晴らしいからである。唐沢版『白い巨塔』がどのように描かれているかわからな
いが、この点に関してはおそらくかなわないであろう。それほど素晴らしい。

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