2年7ヶ月のあいだ、鬼束ちひろは死んでいた。
曲を創ることも歌うことも忘れてその日暮らしをしていた。
2000年のセカンド・シングル『月光』のヒットで、まだ19歳の
彼女はメディアからいっせいに脚光を浴びた。
末恐ろしい女性アーティストが登場したものだと。
メディアは彼女を追いかけた。
メディアへの対応は人気アーティストの宿命、しかし彼女には
苦手なことだった。
アーティストなのに音楽以外のやりたくない仕事や人間関係に
悩まされなければならない。そんな日々に疲れてしまったのだ
ろう。
彼女は“鬱”だったのかもしれない。鬱には十分な休養が必要
だ。その休養の果てに、彼女は音楽をいままでとはまったくち
がう視点から捉えはじめたのかもしれない。
鬼束ちひろはまだ死んではいない。


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