利き腕に打球を受け、ヒジを氷で冷やしながら粘投する法政一
岡野。かたや得意のスライダーを武器に相手打線を抑え込ん
でいる境・安部。
そんな二人の投げ合いは、劇的な幕切れへと向かっていった。
法政一・岡野の持ち味はスローボール。ストレートは速くてせい
ぜい100キロ前後。変化球になると球速はさらに遅くなる。しか
し絶妙のコントロールで境打線に的を絞らせず9回終了まで無
得点に抑え込んでいた。
境・安部は決して速い球を持っているわけではないが、コーナー
を丁寧につくピッチングで、こちらは一本のヒットも与えないまま
延長戦に入っていった。
味方打線が一点でも取っていれば、安部はノーヒッターとして甲
子園の歴史に名を刻んでいたのだった。しかし皮肉なことに味方
が点をとれない。岡野の投球も賞賛に値する。
そしてむかえた10回裏2死からの末野の打席。
初球だった。甘く入ったスライダーを末野が叩いた。
打球はぐんぐん伸びて左中間スタンドへ―――。
なんということだ。初ヒットがサヨナラホームラン。
歓喜に沸く法政一ベンチをよそに、いまだサヨナラ負けが理解で
きずしばし守備位置についたままの境ナイン。残酷なまでのコン
トラストだ。
両投手とも前評判の高い投手ではなかった。しかしこの日二人
は最高のピッチングをした。安部にとってはつらい経験だったか
もしれないが、甲子園の土とともに大きなものを故郷に持ち帰っ
たことだろう。
法政一-境(昭和59年夏・一回戦)
|
(延長10回)


コメントする