奇跡のバックホーム
高校野球ファンにとってこの言葉を聞けば皆“あのシーン”を
思い浮かべるだろう。
あのシーンには“序章”があった。3対2、松山商のリードで
むかえた9回裏2アウト、打席に入ったのは熊本工の1年生
・沢村。松山商の2年生・新田の投じた初球をたたく。打球は
レフトポール際へ。起死回生の同点ホームラン。熊本工は
土壇場で同点に追いつく。
ここまででも十分なドラマなのだがこのあととてつもないドラマ
が待っていた。延長10回裏、熊本工先頭の星子が二塁打を放つ
と松山商は新田をライトに下げ、エースナンバーを背負った渡部
をマウンドに上げた。
そのあと星子は送りバントで三塁へ。すると松山商は満塁策を
とった。そして松山商・沢田監督はライトを矢野に代えた。
これが誰も予想のつかない結果をおこすことになる。
三番打者・本多の打ち上げた打球はライトフェンスを越えん
ばかりの勢いだった。やった―――、熊本工ベンチは誰もが歓喜
した。やられた―――、松山商ベンチは誰もが観念した。
フェンス前で打球を受けたライトの矢野から放たれた送球は斜め
45度、ふつうこの距離でノーカット(中継しない)送球する
ならワンバウンド送球するのがセオリーだ。ところがこの山なり
送球は風に乗ってダイレクトでぐんぐんキャッチャーの石丸の
ところへ。
石丸が捕球した瞬間、三塁ランナーの星子が飛び込んできた。
誰もが目を疑ったその直後、田中球審の右腕が上がる。
アウトだ! 奇跡のバックホームだ!
これで流れをつかんだ松山商は11回表、一気に3点をあげて
試合を決めた。
あれから10年、甲子園はさまざまなドラマを生んできたが、
このプレーは甲子園史上最高のバックホームかもしれない。
松山商-熊本工(平成8年夏・決勝)
| 松山商 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 6 |
|---|
| 熊本工 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 3 |
|---|
|
(延長11回)
